川崎先生は、私が生まれたときから、この特異体質の医学的解明に取り組んでいる。
私が世間で見世物にされてしまう恐れがあるため、研究は極秘で、研究者は先生とパパの二人きり。
そのせいなのか、もともと困難なこの研究は殊更思うように進んでいないらしい。
なぜ声を食べるのか。
なぜ私のような特異体質が突然現れたのか。
謎は解けないまま、ただ私は存在し、生き続けているという事実があるだけ。
「しかし、本当に痩せたな」
この薄い胸に聴診器を当てたあと、カルテにペンを走らせながら川崎先生はしみじみとつぶやいた。
「また食ってねえのか?
親父のことは、もう気にしなくていいと言ってるだろう」
私は何も言えずにうつむいた。
気にしないでいられるなら、どんなに楽だろう。
でも、それは何よりも難しいこと。
だってパパの声は、二度と戻らないのだから。