どうしようもない事実だけが、目の前にある。
あれから三日。
私は一つの決意を携えて、あるアパートの呼び鈴を鳴らした。
反応がない。
それも当然、まだ彼は病に伏せっているはずだから。
でも、回復を待っていられなかった。
早くしないと気持ちが折れてしまいそうだった。
同じ過ちを何度も繰り返してはいけない。
だから、不躾であることは承知で、今日ここへやってきた。
もう一度呼び鈴を押す。
永遠にも感じられた数秒のあと、さも迷惑そうな「はい」が聞こえた。
「こんにちは。沙妃です」
とたんに慌ただしい物音がして、それが静まると、ゆっくりと開くドア。
「……どうして……」
眉を下げて困惑した表情の彼が、こちらをのぞいている。
ちゃんと声が出ていることに、心底安心した。