「あれ、沙妃ちゃん?」
息をするのも忘れていた私は、弾かれたように声のしたほうを見た。
そこには、焦りと驚きを入り混じらせたトワさんがいた。
「どうしたんだ、そんな顔して!」
何か言いたいけれど、言葉が出てこない。
「……圭吾のことか?」
震えが増す。
声の途切れた瞬間が、生々しくよみがえってくる。
「わ……私、のせいで……」
歯がぶつかってうまく話せない。
見かねたトワさんは、私を抱き締めた。
「落ち着いて。大丈夫、ただの風邪だよ。
あいつ、今朝から熱が40℃近くあったんだ」
「え……?」
「ステージの袖でぶっ倒れたから、今救急車を呼んである。
搬送の邪魔にならないように、客の出入りを封鎖しようと思って降りてきたら……。
そこまで震えてるこたあ、ないだろう?」
そこへ、綾乃が息を切らして戻ってきた。
「圭吾くんただの風邪だって!
かすれてたけど、確かに『アンコールに出る』って言ってた!
沙妃、あんたのせいじゃないよ!」
喋ることができてる。
声は、尽きてなかった。
私は安心のあまり、トワさんの腕をすり抜けてうずくまり、人目もはばからず大声でわんわん泣いた。