『太ったほうがいい』


綾乃の言っていたそれは、私自身が一番よく分かっていることだった。




私は、とても痩せている。


もともと小柄で色白なのも手伝って、とても危うく見えてしまうらしい。


周りに心配をかけるこの容姿が、私は大嫌いだ。


でも、たくさん食べたくても食べられない。


私は食べちゃいけないんだ。……




一日中ぎっしりつまっていた講義を終えて大学から帰る途中、私はいつもより二つ前の駅で下車して大学病院へやってきた。


パパの友人である川崎先生に会うために。


院内パスを首に提げ、診療時間外のためにぎわう救急外来の脇をすぎて、エレべーターに乗る。


静まり返った廊下を慣れた足取りで進み、研究室のドアを叩いた。




「おう、沙妃。また痩せたな」


私の顔を見るなり、川崎先生は遠慮もなしに感想を述べた。


「大学が肌に合わなくて……」


「なんだ、大学ほど自由で気楽なところはないってのによ、お前の肌はわがままだな」


豪快に笑いながら私に座るよう促すと、川崎先生は鍵のついた引き出しを開錠し、そこからファイルを取り出した。


そのファイルにも、また鍵がつけられている。


厳重に守られているそれは、私の十八年分のカルテだった。