でも、圭吾さんは歌うことを止めなかった。
声はまったく出ていない。
それでもマイクを手放さず、観客をあおり、精一杯息を吐いて、心で歌っている。
その姿に突き動かされ、観客が大合唱を始めた。
会場が揺れている。
圭吾さんの歌は、この場にいる全員に、間違いなく届いていた。
みんなの心が一つになって、曲は終わった。
メンバーが、全員でステージのギリギリまで前に出て、深く礼をする。
圭吾さんは薄く微笑み、燃え尽きた灰のように白い顔をしていた。
そして名残惜しそうに手を振りながら、ゆっくりと袖へはけていった。
観客からは、自然とアンコールが巻き起こる。
情熱的に『Sir.juke』の音楽を求める声。
でも、メンバーはいつまで経っても現れない。
それは、なぜ?
私は一人、すべてを傍観しながら、全身を凍らせて震えていた。
圭吾さんの歌が、消えてしまった。
私が、圭吾さんの声を奪ってしまった。