それはライブが進行するにつれて、顕著になってきた。
高音が伸びない。
時折、いつもと違う顔の歪め方をする。
「圭吾くん、どうしたんだろう……」
今まで口を真一文字に結んでステージを正視していた綾乃が、たまらず、という感じでもらした。
次第に、観客も気づき始める。
でもメンバーは変わらずに演奏を続けていて、圭吾さんも歌い続けている。
そのとどこおりない流れに、戸惑う観客も押し流されるしかない。
ひたひたと忍び寄ってくる足音が聞こえる。
すぐに持ち直すってこともあるよね?
この予感だけがすべてではないよね?
誰か、大丈夫だと言って。
願いも虚しく、圭吾さんの声はどんどんひどくなっていく。
そして、ようやく迎えた最後の曲。
アップテンポで楽器メンバーのコーラスも厚いナンバーだったため、うまくごまかされていたけれど。
大サビに入ったところで、ついに彼の声は、途切れてしまった。
その瞳が一瞬、悔しさと悲しみで空洞になって、あのときのパパのそれと重なった。