いよいよ始まったライブは、綾乃にどう響いたのだろう。
『Sir.juke』は、確かに雰囲気を変えていた。
素人の私にでも分かるくらいだから、その違いは大きかった。
まず、男性しかいないステージには、圧倒的な力強さがある。
有無を言わさぬ格好良さに、鳥肌が立った。
そして、新しいキーボード奏者の演奏は、綺麗でそつがない印象。
綾乃の、遊びの多い天真爛漫な演奏とは、対角線上の音楽。
プロとしての形を成した音楽。
私の立場からしてみたら寂しい。
でも『Sir.juke』が選んだ道は正しい、とも強く感じさせるパフォーマンス。
だからこそ綾乃の気持ちが気になるのだけれど、私にはそれよりも気がかりなことがあった。
圭吾さんの様子が、おかしい。
それは表からは見えない、けれど絶対的な違和感。
この会場にいる人のほとんどが、もしかしたら綾乃でさえ気づいていないかもしれない。
でも、彼の声を食べ、それを血肉として生をつないでいる私には分かる。
声の力が、弱い。