ライブ当日。




「すごいね……」


ライブハウスの前には、今まで以上の人だかりができていた。


どうやら、今回のライブ限定で、『Sir.juke』初めてのCDが販売されていたらしい。


過去形なのは、私達が到着したときにはすでにCDは完売していたから。


「あんなタイトなスケジュールの中で、一体いつレコーディングしてたんだろう……」


綾乃がぽつりとつぶやく。




圭吾さんが口止めをしてきた、あのときかもしれない。


でも私は、何も聞こえない振りをして黙っていた。


綾乃が、必要以上に平気な顔を装っていたから。




隠し事もつらいな。




そう思っていたら、圭吾さん達もこんな気持ちだったのかもしれないことに気がついた。


みんなが一緒に笑顔になるって、なんて難しいんだろう。




切なさを噛み締め、口数も少ないまま会場へ入る。


私はこのとき初めて、今日は『Sir.juke』の単独ライブだということを知った。