「あ、ありがとう」
圭吾さんは、少し驚いた様子だったけれど、すぐにほっとしたように頬を緩ませた。
「そんなふうに言ってもらえるとは、思ってなかった」
あ、今の声。
とてもおいしそう。
最近まともに食事ができていなかったから、久しぶり聞いた彼の声に刺激されて、腹の虫が急速に元気を取り戻し始めた。
でも、食べちゃ駄目。
これ以上食べて、圭吾さんに何かあったらどうするの?
デビューも決まったようなもので、この魅力的な声を、たくさんの人が待ち望んでいるというのに。
我慢しなくちゃ。
私は彼ができるだけ声を発しないよう、自分が話し続けることにした。
「今まで連絡もしないでごめんなさい。
綾乃のことがあって、ちょっとびっくりしちゃったんです。
何も教えてもらえないまま、いろんなことが進んでいくのは、やっぱり寂しくて。
でも、圭吾さん達にいろいろあるのは、分かってます。
それが音楽のため、仕事のためだってことも。
そして、みなさんがとても優しいのも、よく知ってます。
だから、私が『Sir.juke』を応援している気持ちに変わりはないです。
綾乃も、すっかり元気になって、今では良い経験をさせてもらえたって、圭吾さん達にとても感謝してますし。
事務所の話、きっと綾乃も喜ぶと思います」
まくし立てるような私を前に、圭吾さんは呆気にとられていた。
「嬉しいけど……今日は、よく喋るね」
あくまで私の態度に違和感を抱きながらも、圭吾さんの浮かべた表情には安堵の色が見られる。
誤解はとけたようで、よかった。
でも、安心した彼の声は、私の食欲をくすぐって仕方ない。
話し続けたいけれど、もともと口下手な私は、これ以上うまく言葉をつむげない。