「会いなよ。

夢は夢でしかないんだよ。

そんな不確かなもののせいで、ずっと不安を抱えさせられてるなんて、圭吾くんが可哀想じゃない」


すべてを明かしたら、綾乃は背中を押してくれた。


そう言ってくれることを始めから分かっていたからこそ、私にはその言葉が必要だったんだ。




そうして、尻ごみしていた私は、ようやく圭吾さんと会う約束を取りつけた。


彼の不安を解消することだけが目的なのだと。


もう絶対に食べたりしないと、心に決めて。




『Sir.juke』が新体制になってから初めてのライブを間近に控えた日。


久しぶりに会った圭吾さんの顔は、相変わらず見惚れてしまうほど綺麗だけれど、その表情には、少し影があった。


そういう私も、きっと暗い顔をしているのだろうけれど。




「久しぶりだね。元気にしてた?」


「はい……」


それ以上、言葉が続かない。




少し前までは、あんなに通い合っていると思っていたのに。


今は、互いに思い合っていながら、互いが別々のことで悩んでいる。




挨拶のあとの長い沈黙を破ったのは、圭吾さんだった。




「デビューはまだまだ先だけど、所属事務所が決まったんだ」




なんて喜ばしいこと。


それなのに、圭吾さんは苦しそう。


私のせいだ。


私が連絡もしないで、誤解をとかなかったから、こんなに嬉しいことさえ後ろめたくさせてる。




「おめでとうございます。私も嬉しいです」


私はこの空気を、圭吾さんの不安を振り払いたくて、精一杯の明るい声で言った。