「あたしは、もう大丈夫だよ。

だから圭吾くん達のこと、悪く思わないでね。

まあ沙妃のことだから、そんなこと始めから思ってないかもしれないけど」




綾乃に笑顔が戻った。


でも、この胸の奥には、もやがかかってる。




「今日はお世話になりました」


まだお母さんには合わせる顔がないから、と強がる綾乃と部屋でお別れをして、私はリビングにいるおばさまに挨拶した。


「あら、もう帰っちゃうの?」


「はい。あのCDの歌声、とてもおいしかったです」


「まあ、それはよかったわ」


「それと……綾乃なら、もう心配ないです」


「そう。ほんとに人騒がせなんだから」


また、おばさまは毒づいてる。


でも、リビングとつながっている奥の部屋に置かれたグランドピアノの隣に、カバーのかけられたキーボードを見つけた。


ピアニストのおばさまにとって、ピアノは何よりも大切なもの。


その隣を許すってことは、きっと綾乃のことを認めてないわけではないんだ。




子供を心配しない親なんていない。


優しくするのは簡単で、でもおばさまは綾乃を思ってあえて突っぱねたんだ。


何も知らずにおばさまを悪く思ったことが恥ずかしい。




「お邪魔しました」




一人の帰り道。


私は、自分の小ささが悔しくて情けなくてたまらなかった。


みんな、いろんなことを乗り越えて生きてる。


自分のつらさだけに溺れず、誰かを思いやってる。


それなのに、私はどう?


体質を言い訳にして、弱音ばかり吐いて、助けられてばかり。




ああ。


私も、強くなりたい。