綾乃は、正面から現実と向き合って、前に進むために、素直な心でそれを受け止めたんだ。
卑屈にならず、諦めもせず、すべてを自分の糧にした。
ずっと一緒にいたはずなのに、今まで気づかなかった。
いや、よりいっそう気づかされた。
「綾乃は、強いね」
すると、綾乃は何の気負いや企みもなく言った。
「強くなんかない。
あたしは音楽が好きなだけよ」
それは、楽しいだけじゃない険しい未来さえも受け入れ、それでも突き進む覚悟に透き通った表情。
強さって、こういうことなんだ。
気づかされた大きなものに圧倒されていたら。
「でも……」
綾乃は、今までと一転、ふにゃっと笑った。
「沙妃がいてくれなきゃ、こんなふうに思えなかったかも。
ありがとね」
どうしてそんなふうに言ってくれるんだろう。
乗り越えたのは、綾乃自身の力。
私は、何もしてないのに。……