「……そうよね。

何があったとしても、こんなふうにいじけちゃいけないのよね」




そう言って、うなずきながら前を向いた綾乃の口元には、うっすらと笑みすら浮かんでいたから私は驚く。




「あたしは、プロになりたいと思ってる。

だったら、このくらいのことでくじけてちゃいけないんだよ。

そもそも、くじけること自体おかしいよね。

あたしはあくまでサポートで、昨日は、その役目が終わっただけ。

それなのに、あたしは浮かれてたんだ。

期待してたんだよ、『Sir.juke』の本当のメンバーになれるかもって。

そんなことありえないのに、あたしにだけは特別なことが起きるんじゃないかと思いこんでた」


「私も、そうなればいいと思ってた。

そうなると思ってたよ」


本当の気持ちだから、私は身を乗り出してそう訴えた。


でも綾乃は、優しく微笑みながら首を横に振った。


「ありがとう。

でも、それは沙妃が優しいからそう思うんだよ。

第三者からしてみたら、そうはいかない。

あたしは何を勘違いしてたんだろう。

周りも見えずに、一人よがりだった。

今までのあたしじゃ、何をしても不協和音だったよ。

だから、今回のことはすごく勉強になった。

常に冷静に自分の力や立場を見極めて行動しなきゃいけないって、教わった。

自分だけ特別だなんて、ありえないって。

あたしは天才じゃないんだから……」




綾乃の言葉は雨粒のようにぽつぽつとこの胸に染みてきて、その笑顔の意味を教えてくれた。