そのとき、激しく咳きこんでいる音が聞こえた。


命をしぼり出すような、苦しそうな咳。




背筋が凍った。


私は、この音の震えを知っている。




そう認識したときには、もう目の前に、うずくまっているパパがいた。


肺が爆発するんじゃないかと思うほどの咳が止むと、その背中は数回大きく上下して、パパはこちらを見上げた。


血の通っていない蒼白の顔。


落ちくぼんだ闇色の瞳に、私が映っている。




私のせいだ。


私のせいで、パパは……!




「ごめん、な、さい……」




震える声で言った、次の瞬間。


パパの顔が歪んだ。


歪んで、歪んで、原形を留めないまでになったら、今度はだんだんと顔の体裁を取り戻していく。


それは、パパの顔じゃない。


でも、とてもよく知っている顔。




声を失った絶望に色を失ったその顔は……