『人魚姫』の朗読が始まる。
懐かしい声。
大好きな声。
「沙妃、パパのお声だいすき!」
「そうか」
パパは、嬉しそうに微笑んで本を読み進める。
幼い私は、それを頬張っている。
ああ、そんなに食べてしまったら……
脳裏に、あの恐ろしい光景がよみがえってくる。
「待って!それ以上食べないで!」
記憶を振り払うように、私は必死に叫ぶ。
「パパが声を失ってしまう!」
けれど届かない。
「お願い、食べないで!」
私は、その肉づきの良い小さな腕をつかんだ。
とたんに、幼い私は暴れ出す。
「沙妃は食べたいの!
パパの声を食べるの!」
「それがどういうことか分かってるの?
そのせいでパパは声を失ってしまうのよ!」
どんなに言っても、幼い私は聞き入れない。
「いやいやいや!
パパの声を食べる!パパの声を食べるの!食べる!食べる!食べる!……」
頭に血が上って、目の前が真っ白になった。
「やめて!」