舞い上がって、何も気づかなかった。


こんなことになるなんて、思いもしなかった。


もし私に冷静な判断力があって、何か行動していたら、綾乃がこんなに悲しむことはなかったかもしれない。




でも、どんなことがあったって圭吾さんを裏切ることなんてできなかっただろう。


そして、これは私が首を突っこんでいい問題じゃない。


すべては『Sir.juke』が、音楽のために決めたこと。




それでもあのとき、圭吾さんが私に秘密の尻尾を見せたのは、彼も悩んでいたからだ。


トワさんも言ってたじゃない。


メジャーに近づくほど本音をさらけ出せる場所がなくなるって。


誰にも言えずに苦しんでいたから、彼は私を頼ってくれた。




『Sir.juke』のメンバーは、みんな優しい。


それを疑うほど、私は意地悪にはなれない。


この決定には、きっと事情があったんだ。


どうしようもないことだった。


私は、自分にそう言い聞かせる。




でも。




「一緒に、音楽を創ってるつもりだった!

みんなで頑張って練習してきた!

今日だって、良い演奏しようって、円陣組んで……

さっき、みんなで笑って、音楽したんだよ……!」




どうして、こうなってしまったの?




綾乃の泣き声が、路地に響いている。


私は何も言えないまま、どこへぶつけていいのか分からない感情を涙にして、頬に伝わせていることしかできなかった。