どうして?


なんて、聞けない。


私はただ、しがみついてくる綾乃を抱き締め、服に染みこんでくる涙の感触に意識を預けていることしかできない。




綾乃は、途切れとぎれに話し始めた。


「ずっと前から、決まってたって……

デビューへ向けて、ショウさん達は、動き出してて……

音楽事務所の人と、話し合って……

それで、あたしは……『Sir.juke』の音楽性に、適さないって……」


そして、いっそう泣き出す。


「仕方ないって、分かってるの……!

あたしは所詮、サポートでしか、ないし、未熟なことも、音楽性のことだって……

でもっ!それなら、言ってくれればよかったのに!

あたしに隠れるみたいに、他のサポートを探したり、別のスタジオで練習したり、レコーディングしたり……

いきなり、こんなふうに、するなんて……!」




肩が震えた。




『このことは、誰にも言わないでもらえるかな』




圭吾さんに突然呼び出されたことを思い出した。


あの日、圭吾さんは別のスタジオで何か活動をしていた。


そして、それを口止めした。




あのときから、すでに『Sir.juke』は動き出していたんだ。


今日の、この時へ向けて。