夏休みも終わり、大学が再開した。
「あー、つまんない」
机の上に乱暴に放り出されるテキスト達。
それ自体に罪がないことは重々承知なんだけど、しようがないとも思う。
綾乃と同様に、私も相変わらず講義には興味が持てなかったから。
でも、変わったこともある。
「あっ、降りてきたわ!」
急に綾乃がノートを広げ、ペンを走らせ始めた。
「どうしたの?何が降りてきたの?」
尋ねても返事がないので、しばらく様子を見ていると。
「……できた!」
「何が?」
「詩よ!これは名作だわ!
読み上げるわよ、しっかりお聞きなさい!」
そして、綾乃は自作の詩とやらを朗読し始める。
「にほひ立つ風はー彼の青草の香かー来たる節の挨拶かー……」
その調子は、まるで百人一首の読み手のよう。
「桜の花片ー散り逝く様はー遠ひ貴方の目にもー映りましたかー……」
ご丁寧に旧仮名遣いで書いているくせに、現代読みをしているから、どうにも間が抜けてる。
「幾年月流れてもーますます恋しひのはー……」
ほんと、間抜けで……
「未だ此の心ー宵の口ー彷徨つて居るー所為でせうー!」
こらえきれなくて、吹き出した。