車に乗りこめば、この夏の一大イベントとも、もうお別れ。
「お世話になりましたーっ!」
綾乃は助手席の窓から身を乗り出して手を振っている。
私も、控えめながら後部座席の窓から頭を下げた。
「おう。また近々ライブハウスでな!」
トワさんも手を振ってくれた。
「じゃあ、出発するぞ」
おてんば娘がちゃんと座席に納まったのを確認して、ヤマトさんは車を発進させた。
民宿が、少しずつ遠ざかっていく。
トワさんの姿が見えなくなるまで、私は身をよじって手を振り続けた。
「終わっちゃった……あっという間だったね」
流れる海の風景を眺めながら、綾乃が寂しそうにつぶやいた。
ほんとに、あっという間だった。
いろんなことが走馬灯のようによみがえってくる。
その記憶の中心には、今、隣に座っている彼がいる。
去年の今頃、内にこもって未来への憂鬱に沈んでいた私が、今のこの状況を予想することができただろうか。
ずっと喋ってる綾乃。
それに相槌を打ってあげてるヤマトさん。
黙ったまま、頬杖をついて海を見てる圭吾さん。
横に感じる体温にドキドキしながらも、不思議な安らぎに満たされてる、私。
自分が、こんな青春に巻きこまれてしまうなんて。
嘘みたいな、現実。
そして圭吾さんと繋がっていられる幸せ。
この瞬間に感じるすべてを、私はまぶたに、心に、焼きつけた。