差し出されたのは、宛名も何も書かれていない茶封筒。


受け取ってみると、封もされていない。


「これは?」


戸惑いの瞳で尋ねると。




「昨日のバイト代」




思いもよらない返事に、私は動揺した。


「私、そんなつもりじゃ……役に立ってもいなかったし……」


「とても役に立ったよ。

立派な働き振りだったから、当然の報酬だ。

少ないけど、受け取って」


「でも……!」


「沙妃、受け取っときなよ。

トワさんはお金持ちだから、気にすることないって」


綾乃が横から口を挟んできた。


それを受けて、トワさんは。


「そう、俺、お金持ちなの」


ちょっとおどけて、すがすがしい笑顔を見せてくれた。




申し訳なくて、ためらう気持ちは大きい。


でも、この好意は、優しさは、拒めない。




「……ありがとうございます」




茶封筒を握り締め、深く頭を下げる。




「うむ、よろしい」




満足げなトワさんに頭をなでられながら、私は生まれて初めてのお給料の重みを、しっかりと胸に刻んだ。