「いえ、何でもないです。
すぐに綾乃を起こして支度させますね」
そう言って、私はドアを閉めようとした。
しかし、ショウさんの手がそれをさえぎって。
「まだオーナーからバイトを頼まれてるのか?」
オーナーって、トワさんのことだよね。
「いえ、頼まれてませんけど……」
「じゃあ君も一緒に帰るといい」
……え?
「いいんですか?」
あんなに私が近づくことを嫌っていたのに。
そうなっても仕方がない過去があるというのに。
「嫌なのか?」
「嫌じゃないです!
でも、私……」
「俺は急用が入って先に一人で帰ることになったから、車に一人分空きができたんだ。
置いていかれたくなかったら、早くしろ」
ショウさんは、素っ気ないまま、でも今までにない親しみを置いて、去って行った。
ショウさんの中で、どんな感情が動いて、何がきっかけで思いが変化していったのか、それは分からない。
でも、ショウさんは私を受け入れてくれた。
それは間違いなさそう。
「……ねえ。ねえ、綾乃!」
私は嬉しくって、いまだ布団に包まっている眠り姫を思い切り揺さぶった。