脳内でタイムスリップしていたら、ドアをノックする音がして、現実に引き戻された。
「はいっ」
洗面所から飛び出して慌ててドアを開けると、そこにはショウさんがいた。
「ん?どうした、顔が赤いぞ」
「いえ、なんでも……」
「そうか。まあ、いい」
相変わらず、落ち着いていて無表情な人。
「綾乃はまだ寝てるみたいだな」
「はい」
「早く起こしてくれ。帰るぞ」
「え?もう帰るんですか?」
「もう、じゃない。始めから決まっていたことだ。
今回のライブはきついスケジュールに急遽、無理矢理入れこまれた。
これからやらなきゃいけないことが山程ある。
時間がないんだ、早く綾乃を起こして支度をしてくれ」
事情は分かった、けれど。
「あ、あの」
「なんだ」
「その、私は……」
私はどうやって帰ればいいんですか?
と、尋ねようとしてやめた。
そんなのショウさんの知ったことじゃない。
私は『Sir.juke』のメンバーでも、サポートでも、スタッフでもない。
一人で帰るのが当たり前だ。
まだ甘えようとしてたなんて、恥ずかしい。