打ち上げ花火の準備はとどこおりなく運んで、まもなく雄樹さんの手によって着火された。
「きゃー!」
「逃げろー!」
みんなが耳を押さえ、ひとところから散り散りに逃げ出す姿を見た、そのとき。
大きな手が、私の頬を包んだ。
そして、圭吾さんがのぞきこんできたかと思うと、ふっと視界が暗くなって。
大きな大きな音と共に。
唇に、やわらかな感触。
それは、温度を感じさせる暇もなく離れて。
開けた視界に映ったのは、夜空に咲いた花火の、余韻。
みんな空を見上げ、歓声を上げている。
今、起こった出来事を知っているのは、私と彼の二人だけ。
唇が、熱くしびれる。
圭吾さんは、真顔で海を見つめてる。
でも、民宿の明かりに照らされているその頬は、心なしか赤い。
ますますきつく結ばれる手と手。
好きすぎて、どうしようもない。
悲しくないのに、涙があふれてくる。
このとき、私は初めて知った。
ほんとの幸せは、うんと甘くて、とても切ないものなんだって。