それから始まった演奏は、私の『Sir.juke』のイメージを根底からひっくり返した。




綾乃の言っていた通り、あたたかくて優しい音色が店内に染み渡る。


それもそのはず、今日の『Sir.juke』はみんないつもと違う楽器を使っていた。




雄樹さんはエレキギターじゃなく、アコースティックギター。


綾乃は店内のインテリアにもなっていた白いアップライトピアノ。


いつもはドラムのヤマトさんは、椅子みたいな木箱に座りその側面を叩いてリズムを刻み、周りにはタンバリンやマラカス、トライアングルが用意されている。


ショウさんにいたっては、なんと巨大バイオリンみたいなコントラバス。


機械や電気を一切使わない、耳になじむやわらかいハーモニーがとても心地いい。


演奏されているのは、CMで聴いたことがあるような耳障りのいい洋楽だったり、ジャズテイストにアレンジされたオリジナル曲。


歌に聴き入っている客席からは、時折ため息がもれている。


きっと、この客層を考えて練られた曲目。


メンバーの多彩さには、驚くばかり。




そして、圭吾さんの歌声も、いつもの何倍も優しかった。


いつもが油絵だとしたら、今日は水彩画のような。


それは楽しい時間で上がった体温をやわらかく平熱に戻してくれる。


体は安らぎ、心は洗われていく。




『今日は最高の歌をうたうよ』




約束通り。


圭吾さんは、最高の歌をうたってる。


独り占めすることなんてできないけれど、この場でこの歌を聴けた、それだけでもう充分。




特別参加のため、わずか三曲だった『Sir.juke』のパフォーマンス。


それでも私は、会場は、うっとりと酔わされた。