ステージの背になっている窓越しに、海の景色が一望できる。


夕陽の名残も消えた頃、いよいよライブは始まった。




ステージに白い照明が灯り、現れたのはギターを抱えた男性。


白髪の交じる長髪を一つにまとめ、ウエスタン調の衣装をまとっている。


客席から拍手と指笛が起こった。


男性はマイクスタンドの位置を調整して、照れたように笑うと。


「みんな、久しぶり!今日は盛り上がるぞ!」


と叫んで、歌い始めた。




どうしてだろう。


声とギター、この上ないシンプルな音楽なのに、引きこまれる。


会場が一瞬で彼の歌に染まった。


客席では、一緒に大声で歌っている人、テーブルを叩いてリズムを刻んでいる人、ステージの前で踊り出す人もいる。


同じ音楽を、それぞれが自由に楽しんでいる。


トワさんも立ち上がって、踊りの輪に加わっていった。




「可愛らしいお嬢さん。

一緒に踊りませんか?」


手を差し伸べてきたのは、お酒で頬を赤らめた男性。




ちょっと恥ずかしいけれど。




「大人しく座ってちゃもったいないよ。

せっかくの音楽だ、一緒に楽しもう」




たまにはこんなのも、いいかもしれない。




私は立ち上がり、しわの刻まれた手を取った。


男性の足取りはおぼつかなくて、ダンスのエスコートだって決してスムーズとは言えない。


でも、とても陽気に笑ってる。


みんな、みんな笑ってる。




こんなに楽しくて、こんなに平和な時間があるなんて。




嬉しくて、嬉しくて、私も思い切り笑って踊った。