そしてトワさんは、このライブについて少し教えてくれた。
「これは、俺が毎年企画してやってるんだ。
ライブハウスは主に若いミュージシャンの育成のために経営してるんだけど、たまには昔の音楽仲間とワイワイやりたくなるときがあってね。
休暇の取りやすい夏に、海の家に集まって、一晩だけでもみんなで昔に戻ろうってわけよ。
現役のヤツにはステージに立ってもらって、音楽から離れたヤツは客席で盛り上がる。
どちらも音楽を心底愛してるヤツばっかりだ」
話を聞いていると、トワさんの人物像を垣間見た気がした。
ライブハウスをやっている理由。
音楽事務所の人と親しかった理由。
そして、ショウさんの過去にとても詳しかった理由。
トワさんもまた、音楽を愛している人だったんだ。
でも、疑問が一つ。
「そんなライブに、どうして『Sir.juke』が出演することになったんですか?」
「ああ。それはね、単なる自慢だよ」
「自慢?」
「こんなにすごいヤツらを、俺は育ててるんだぜ、って見せびらかしてやりたいんだ。
そして、今の音楽はつまらないって言われてる中で、こんな音楽をやってくれる若者がいるんだって、希望も見せてやりたい。
だから、俺が『Sir.juke』に依頼したんだ」
初めて会ったとき、トワさんは誇らしげに『Sir.juke』を語ってた。
今のトワさんも、その記憶と同じ顔をしてる。
「沙妃ちゃんも、自慢したくない?圭吾の歌を」
ずいっとのぞきこんできたトワさんの瞳には、甘い企みの色。
「もちろんです」
私達は共犯者のように微笑み合った。