海の家の周辺には、人だかりができていた。
店の中に作られた簡易ステージは、ガラス越しに外から丸見え。
サウンドチェックの音も、はっきりともれて聞こえてきている。
外にいてもライブは充分に楽しめそうだ。
私は人波をかいくぐり、入り口でチケットを切ってもらい入場した。
店内を見渡して、驚く。
窓際に簡易ステージが設置されたこと以外、昼間と何も変わりがないのだ。
テーブルも椅子も、そのまま。
お客さんはみんな、暖色の淡い照明の下で、ゆったりと酒をくみ交わしている。
そして、そんな彼らの年齢にも驚く。
だいたいトワさんと同年代か、それ以上の、年配の男性がほとんどだ。
「あ、沙妃ちゃん。いらっしゃい」
ステージから一番離れたテーブルに、トワさんがいた。
「君の席は、ここ」
椅子を引いてもらって、私は恐縮しつつそこへ腰かけた。
「昼間は、ありがとね」
「いえ、とんでもないです。
それより、ほんとにここでライブがあるんですか?」
「そうだよ。いつものライブハウスとは雰囲気が違うもんな。
驚いた?」
私は、力一杯うなずく。
「これにはこれの良さがある。
ライブが始まれば、すぐに分かるよ」