言いたいことはたくさんあるけれど、できあがった綾乃の姿は意外で、そちらに気を取られてしまった。


「その格好でライブに出るの?」


綾乃が着ているのは、フラガールのシルエットがプリントされたTシャツと、ひざ丈のデニムスカート。


可愛いけれど、いつもより随分おとなしいファッション。


「今日は、いつものギラギラしたステージじゃないから。

親しみやすくてあったかい、新しい感じのライブにしたくて、みんなでラフな衣装にしようって決めたの」




あったかいライブ、なんだ。




「期待してて!」


ばっちりウインクを決めて、綾乃はリハーサルへ行った。




そうだね。


新しいことへの心配とか、不安とか、そんなもの余計なお世話だ。


さっきだって、圭吾さんの、あの表情。


私は、期待だけしていればいい。




時間がくるまで、部屋の窓から海を見ていた。


真夏の太陽は、なかなか沈まない。


それでも時が経ち、家族連れが少なくなるにつれて、海辺ではカップル達が寄り添い始める。


それが、ちょっと、うらやましく思えたり。




お腹が減ったな。


早く圭吾さんの歌がほしい。




闇の気配に空が染まり始めた頃、私は部屋を出た。