みんなは、これからこの海の家で昼食らしい。
「私なら一人で帰れますから、圭吾さんもみんなとお昼を食べてください」
ショウさんの目もあるし、私は遠慮した。
でも、思いがけないことに。
「民宿なんて、すぐそこまでだろう。
早く送ってってやれ」
そう圭吾さんを後押ししたのは、ショウさんだった。
「海の解放感で頭のネジがすっ飛んでる輩が、そこいらにわんさかいるからな」
見渡せば、日焼けした金髪のお兄さんとか、恐そうな男の人がちらほら。
「……送って行く」
そう言った圭吾さんの声には、今までになく力が入っていた。
ここは、お言葉に甘えておこう。
スタッフの人達に挨拶をして、海の家を出る。
目と鼻の先の距離だけど、久しぶりの二人きりの時間。
最後に会ったのは、『聖地』に呼び出されたときだったっけ。
「調子は、どうですか?」
「うん。なんとか上向いて、今は絶好調」
「よかった」
「沙妃ちゃんの、おかげだよ」
嬉しい言葉。
「お礼に、今日は最高の歌をうたうから」
自信満々の笑顔に、息が詰まるほどドキドキする。
「楽しみに、してます」
やっとしぼり出すように言えたけど、もう顔は見られなくて、ぎこちなく会釈だけして、私は民宿の中へ駆けこんだ。