民宿を裏口から出ると、短いコンクリートの階段を下りた先から砂浜は始まっていた。
「待ってください!」
歩幅の大きいトワさんを駆け足で追いかけていると、たった数歩でスニーカーの中に砂が入ってきた。
前途多難、の予感。
「これがウチの店。
今日ライブをやる場所だよ」
やってきたのは、砂浜に点在している店の中で最も目立っていて、最もにぎわっている木造の建物だった。
外壁の一部にはペンキでアートが描かれ、中二階の部分の屋根は藁葺きになっている。
こっちのほうが、トワさんらしい。
「いい見栄えでしょ。
今年は特に力を入れて建てたんだ。
壊すのがもったいないくらいだな」
海の家って、夏前に建てて、シーズンが終わったら解体するんだっけ。
潮風に吹かれ自慢げなトワさんは、いつもより幼い笑顔。
「よし、じゃあ気合入れて働くぞ!」