トワさんは玄関で腕を組んで私を待っていた。
「ごめんなさい、お待たせしました」
「いいよ。それより、はい」
唐突に渡されたのは、折りたたまれた黒い布。
「これは……?」
広げてみると、この形は間違いなくエプロン。
「それ、着けて」
「え、これを?」
「いいから、着けて」
仕方ないから、渋々着けてみた。
すそは長いし、ひもはウエストを二周できるし、私には少し大きいみたい。
でもトワさんは、そんなこと気にも留めずに。
「似合ってる、似合ってる。
じゃあ、行こうか」
「え?行くって、どこへ……」
「海だよ。部屋の窓から見えたでしょ」
確かに、見えたのは見えたけど。
「人手が足りないんだ。
一人で部屋にこもってるのも退屈だろうし、沙妃ちゃんにも仕事を手伝ってもらうよ」
……ちょっと待って。
仕事って何?
混乱する頭を整理する暇もなく、トワさんは歩き出す。
「突っ立ってないで、早く!」
「は、はいっ」
疑問や不安は置き去りにして、私はただ後を追うしかなかった。