私に鍵を託して、彼は部屋を出て行った。
すぐに降りていかなきゃ。
でも、気にかかっていた……波の音や、人のざわめきの近いことが。
ぴっちりと閉められているカーテンの端から、陽がもれている。
さっきのトワさんの言葉を思い出した。
『部屋に着いてからのお楽しみだよ』
もしかして。
思い切ってカーテンを開けると、あまりのまぶしさに私は反射的に顔を背けた。
何度かまばたきをして網膜に焼きついた点滅を払い、今度はおそるおそる薄目を開けてみると。……
窓の向こうに広がっていたのは、想像以上の光景だった。
シンバルをかき鳴らすような陽射しを降らす太陽。
響いて溶け合う、笑い声と波の音。
透明なビーチボールが太陽の光を反射してキラキラ跳ねている。
白い砂浜には、極彩色の水着をまとった人々に、真っ赤なパラソル。
向こうには、雲一つない空の青を映した、大きな大きな海。
そのすべてが、目から、耳から、私の中へ流れこんでくる。
私は、それを美しいと思うと同時に、ひどい疎外感にさいなまれた。
この健やかな夏に、私の白すぎる肌は、とても似合わない。
急に寂しくなってしまった。
カーテンを閉めて、このままじっとしていたい。
弱気な自分に支配されてしまいそう。……
でも、玄関でトワさんが待ってる。
もう少ししたら、綾乃や圭吾さん達もくるはずだし。
私は自分を奮い起こして、部屋を後にした。