「オーナー、お疲れ様です!」
元気のいい男性の声。
民宿の奥から駆けてきたのは、初めてのライブでチケットを切ってくれた、あの親切なスタッフさんだった。
「おう、お疲れ。こっちはどんな具合だ?」
「ええ、掃除や買出しは一通り済みましたし、人手も足りてます。
問題は、あっちですね。
思いの他お客さんが多くて、さっきこちらから一人応援を出しましたけど、追いついてるかどうか……」
「そうか。まあ、俺がきたからにはもう大丈夫だ」
「頼りになるっす!」
「じゃあ、まずはこの子を部屋まで案内してもらえるか」
「分かりました!」
スタッフの彼は、満面の笑みでトワさんから私の荷物を受け取った。
まるで、人懐こい犬みたい。
「荷物を置いたら、またここに下りてきてね」
そう言って、トワさんは玄関から真っすぐ奥へと伸びている廊下を一人で歩いて行った。
「綾乃さんのいとこの方ですよね?
お部屋、こちらです!」
私はスリッパに履き替えて、促されるまま階段を上った。
案内された部屋は、ほんとに寝るだけ、といった感じの狭さだった。
ドアを開けてすぐ左手にユニットバス。
シングルベッドが二台と鏡台、あとは人が通る隙間ほどしかない。
「では、お荷物はベッドの脇に置きますね。
こちらは鍵です。失くされないよう気をつけてください」