出発してから三時間ほど経っただろうか。
景色の向こうに水平線が見えて、窓は閉められているのに車内には潮の香りが漂い始めた。
ため息をつくように、エンジンが止まる。
「着いたよ」
フロントガラス越しに見えるのは、昔ながらの風情漂う二階建ての素朴な民宿。
しらけたコンクリートの壁、無難なたたずまいは、トワさんらしくない感じ。
「さて、部屋に荷物を運ぼうか」
「はい」
重いドアを力一杯押して車から降りると、波の音が近くて驚いた。
でも前は民宿、周囲は高低様々な木で囲まれていて、後ろは道路。
「海はどこにあるんですか?」
尋ねると、トワさんはニッと笑った。
「部屋に着いてからのお楽しみだよ」
「……早く、行きましょう!」
「かしこまりました、お嬢様」
トワさんはうやうやしくお辞儀してみせる。
気のはやる私は、もどかしさ余って、どうやら変な顔をしていたらしい。
トランクに積んでいた荷物を下ろし、民宿の入り口をくぐるまで、トワさんはずっと笑いっぱなしだった。
その後ろをしょんぼりとついて行くと。