「分からない、って顔してるね」


ハンドルを切るトワさんと、一瞬目が合う。


「はい、私、どうしてそんなことを言ってもらえるのか……」




「そういうところが、いいんだよ」




「え……?」


「アマチュアでも『Sir.juke』くらいになると、いろいろ打算で寄ってくる人間が結構多いのよ。

メジャーに近づけば近づくほど、業界の汚い部分にもさらされなきゃいけない。

だから、沙妃ちゃんみたいに何の企みもなく接してくれる子は、ほんとに大切なんだよ」




『秘密だから、今日……沙妃ちゃんを呼んだんだ』




あのときの言葉を思い出す。


圭吾さんは、いろんなしがらみに縛られてたんだ。




「ステージに立つ人間ってさ、大勢の観客の前で堂々とパフォーマンスできるくせに、実は案外もろいものなんだ。

でも弱ってるところを仲間には見せたくなかったり、強がっちゃったりして、本音をさらけ出せる場所がなかなかないんだよね。

だから圭吾に何かあったときは、沙妃ちゃんが支えてやってほしいんだ」




私に何ができるのかは分からない。


でも圭吾さんを思う気持ちなら誰にも負けない。


きっと、バンドに関わらない私だからこそ、できることがある。




「はい」




私は決意を噛み締めながら、うなずいた。