走り出した車の中には、圭吾さんのときと同様にいろんな音楽が流れている。
こういう録音の声に触れる機会が増えたから、うっかり食べてしまわないためのコツを、私はいつの間にか身につけていた。
これまで男性の声は食べ物でしかなかったけれど、ちゃんと音楽として楽しめるようになれたことが嬉しい。
うっとりと耳を傾けていたら、聴き覚えのある歌声が流れてきた。
「この歌……」
それは、圭吾さんがプラネタリウムに連れて行ってくれた帰りに、私達を包んでくれた神様の歌。
反応した私に、トワさんは意外そうだった。
「あ、沙妃ちゃん知ってる?
って、かなり有名だから知っててもおかしくないかな」
「いえ、つい最近までは知りませんでした。
圭吾さんに教えてもらったんです」
「なるほどね。アイツ、好きだもんな」
「音楽の神様だ、って聞きました」
すると、トワさんは優しく笑った。
「ミュージシャンなら、憧れずにはいられない存在なんだよ。
きっと、沙妃ちゃんにも知ってほしかったんだろうな。
自分が愛してる音楽を」
「……そうだと、嬉しいです」
トワさんったら、私のためにお世辞ばかり……そう思っていたら。
「そうだと、じゃなくて、そうなんだよ」
思いがけない真面目な口調に、私は驚いて運転席を見た。