食事の度に思い知らされる現実。
拭えない劣等感。
いまだに体質のことは、受け入れられずにいる。
それでも食べなければならない。
世界で一番嫌いなことが、生きるために一番必要なこと、だなんて、皮肉。
公園の真ん中の、噴水池の向こうから聴こえてくる歌声を、一口いただく。
私は、声が聞こえさえすれば、いつでもそれを食べることができるのだ。
でも、男性の声ならなんでもいい、というわけじゃない。
日常会話は下品だったり内容が荒んでいることが多くて、うっかり食べると胃を悪くしてしまう。
それに対して『聖地』に響く歌声は、まっすぐで、ひたむきで、元気になれる。
どうやら声に乗せられた感情が栄養になっているらしい。
この公園は、最も安心して食事できる場所なのだ。
飲みこんだ声は、夢を叶えようとする一途な想いに潤っていた。
ふと、綾乃を思い出す。
きっと今頃、この公園の近くにあるスタジオで頑張っているのだろう。
見渡してみたけれど、そびえる建物はみんな澄まし顔で、綾乃の居場所を教えてくれることはなかった。