海の家に行くことが決まってから、私はいっそうふわふわして、落ち着かなくなった。
圭吾さんのことを想うと、この胸は甘いのか痛いのか分からなくなる。
早く会いたくて、でも会えなくて、つらいんだけど、嫌じゃない。
もどかしくて、じっとしていられなくて、しょっちゅう『聖地』へ行っては彼の近くにいるつもりになって気を紛らわせた。
それでも毎日同じ場所へ行っていると、どうしても飽きてしまう。
気分転換も兼ねて、私は久しぶりに川崎先生に会いに行くことにした。
その、病院へ向かう途中でも、やっぱり私は『聖地』からスタジオを見上げた。
いつものようにブラインドは降りていて、彼が窓から顔を出すことはない。
でも、もうすぐ会える。
相変わらず、大きくて、不器用で、優しいかな。
この暑さで痩せちゃったりしてないかな。
ライブでは、どんな歌をうたってくれるのかな。
海を見ながら、おしゃべりできたらいいな。……
忙しそうだから遠慮していたけれど、メール、してもいいかな。
負担にならないように、当たり障りのない内容でいい。
決めた。
今日、病院から帰ったらメールしよう。
炎天下でも足取り軽く、私は『聖地』を後にした。