「俺にとって一番大事なことは何なのか、分かったよ。
今までの俺は、間違ってなんかいなかった」
何があったのかは分からない。
でも詳細を知って何になるだろう。
圭吾さんは、壁にぶつかって、そして、それを乗り越えた。
その事実だけで、もう充分。
「……すごい、です」
途方もない輝きに、圧倒される。
「ただ夢をみているだけじゃなくて、夢に向かって行動して、その先でぶつかる困難に立ち向かうなんて。
とても、すごいことです」
そして、うらやましい。
私なんか夢みているだけで、一歩も前に進めないのに。……
そんな私の心の声など知らない圭吾さんは、ふんわり笑って、何回目か分からない「ありがとう」をくれた。
こんな私でも、役に立てたのかな。
そう思うと、くすぐったくって、胸の奥が熱くなる。
そのとき、軽快な電子音が鳴った。
どうやら圭吾さんの携帯に着信が入ったらしい。
「ショウからだ……」
圭吾さんは、発信者だけ確認して、電話には出なかった。