幼い頃は、声を食べることが当たり前だと思っていた。


でも小学校に上がったとたんに、世界は変わってしまった。


「声を食べることは、みんなには内緒よ。

何か聞かれたときは、何も食べられない病気です、って答えましょうね」


ママがそう繰り返し言い聞かせていたのは私のためだったと、今なら分かる。


病気だとすれば、人格は守られて、この特異体質が好奇の目にさらされることはないのだから。


でも幼い子供は、嘘をつくことが苦痛でたまらなかった。




私は元気なのに。


どこも悪くないのに。




そんな私の胸の内など知らないクラスメートは、その幼さから、純粋な疑問を無邪気に投げかけてきた。


「どうして給食を食べないの?

お腹が空かないの?」


私は「病気だから」と答える。


すると、みんな必ず心配して、気遣ってくれた。


でも私とみんなの間には埋めようのない溝があった。


だって、みんなは楽しそうに、おいしそうに、給食を食べている。


私には、それができない。




みんなと同じになりたくて、お菓子やパンをこっそり持ち出して食べてみたことがあった。


でも何度やっても飲みこめなくて、力ずくで喉の奥に押しやってみたら胃が痙攣して吐き散らしてしまった。


苦しくて息が止まりそうだった。




嘘をついても、つかなくても、私は普通じゃないんだ。




この思いが、幼い心に孤独を刻みつけた。


給食の時間になるといたたまれなくて、保健室へ逃げこんで、泣いて。


私は少しずつふさぎこんでいった。