翌日。
綾乃は興奮していた。
「昨日のライブ、大手音楽事務所の重役が見てくれてたの!」
トワさんの隣にいたスーツの男性を思い出した。
きっと、あの人だ。
「見て、名刺をもらったんだよ」
記されているのは、そういう業界に興味がない私でも知っている事務所の名前。
すごい人だったんだ。
でも、私は、あんまり好きじゃなかった。……
「君は面白い演奏をするね、って褒めてもらっちゃった」
私は、睨まれたのに。……
「『Sir.juke』の噂を聞きつけて見に来たらしいけど、チャンスだと思って目一杯アピールしてみたの。
プロに一歩近づけた……と思ってもいいよね!」
私が普通……ううん、普通にもなれない、何の取り得もない人間だからいけないのかな。
私も綾乃みたいに、音楽ができたらよかったのかな。
そうしたら、あんなふうに……邪魔者みたいに言われなかったのかな。
こんな不安定な立場じゃなく、当たり前に彼の隣にいられたのかな。