ファンはみんな、それぞれに『Sir.juke』へ想いを寄せている。
ファンとアーティストという、飛び越えたくてもできない関係性を前に、じれったく唇を噛んで。
それでも、熱い想いに駆り立てられて、メンバーを追いかけて、手を伸ばして。
それが、ただの憧れなのか、恋なのかは分からない。
でも、『Sir.juke』を好きだという共通点を持っているにも関わらず、私は彼女達とはまったく違う立場にいた。
私は、彼らと関われている。
数え切れない幸運の積み重なった末に、私は、偶然にも、一方通行ではない関係性を授かったんだ。
今まで当たり前だと思っていたけれど、そうじゃなかった。
控え室に招かれることも。
圭吾さんとメールできることも。
言葉を交わすことも。
優しさをもらえることも。
その瞳に映してもらえることも。
一つも当たり前なんかじゃ、なかったんだ。
『お疲れさま。
今日のステージも、すごく良かったよ。
また明日、大学で会おうね。』
そう綾乃にメールを打って、私は一人、電車に乗った。
同じ道のはずなのに、帰りの電車からの景色は、行きとは全然違う。
星がこんなに寂しく見えた夜は、今までなかった。