綾乃と別れた私は、道路を挟んで駅の向かい側にある『聖地』へ向かった。
『聖地』では、ストリートミュージシャンの歌声が途切れない。
今日も、夢をつかむために懸命な若者達が、公園のあちこちでパフォーマンスしている。
散歩している振りをして、うつむき加減で彼らの歌声に耳を澄ます。
そして気に入った声を探り当てると、薄く口を開いた。
私には秘密がある。
それは、『声を食べる』ということ。
形ある物はすべて、水すら体が受けつけない。
生まれたときから、声しか食べられないのだ。
それも、男性の声に限られている……まるで吸血鬼が異性の血を好むように。
この特異体質こそが、私を引っこみ思案にした要因だった。