那々は目が悪い。というか目が見えない。
本は読めないテレビ画面も見られない、文字も知らないし書けない。
この殺風景な病室は彼女が盲目なためでもある。だから俺はこの真っ白な部屋が好きじゃない。
ここには何もないと彼女は知らないから。俺と彼女の見ている世界が違うんだって俺自身が考え始めてしまうから。
だから那々は音楽に逃げる。いや逃げるって言い方は良くないか、彼女は真っ暗な世界を音楽で埋め尽くすんだ。
俺は何も言わない。ここに来たら俺も彼女の世界に入り込む。
それが俺たちの暗黙の了解であり俺たちのルールであり、そして信頼関係だった。