携帯電話を大事に大事に左ポケットの奥底にしまうと、

俺は右隣りに座る色黒の女の子を見た。

すると視線に気付いた彼女が口を開く。


「拾ってくれたのが、ミズキでよかったね。私なら…多分ほったらかしだったよ?」


にこやかに言い放つ。


ミズキ…?

ミズキって、あと一人の女の子の事だろうか…?


「さっき中華料理屋に居た2人…だよね?

ミズキ…って色白の女の子の事…!?」


「何ソレ〜、確かに私は黒いけどさ〜」


俺の言葉の揚げ足を取るかのように反応する。

確かに色黒だ…、と心の中では頷くも、


「…いや、別にそういう訳じゃないけど、

…その子が拾ってくれたんだろ…?」


ウン、と頷くと女の子は立ち上がった。


「…その色白…じゃなくって、ミズキって子は、何でいないの?」


「………………

…だから…

さっき電話で言ったじゃんっ!?

ミズキは用事があるから帰ったって!!…私は、頼まれただけ。

"探してると思うから、このサークルKで待ってて、もし電話がかかってきたら渡してあげて"って…」


そう言うと女の子は俺に背を向け、この場を去ろうと歩き出した。

俺も立ち上がった。


「拾ってくれて、ありがとう!!…ミズキ…ちゃんに、そう伝えといてくれるかな?

それと……」


言葉を詰まらせる俺に、察した色黒の彼女は、振り返ってこう言った。


「私は、リエ。
ミズキにはちゃんと言っとくから!

…もう落としたりしたらダメだよ〜!私らみたいな善人に拾われるとは限らないんだから〜!!」


そう言って再び背を向け、歩き始めた。


「ありがとう。本当に助かったよ。

ありがとう!」


そう告げる俺の言葉を聞いてか、聞かずか、

リエ、という色黒の女の子は雑踏の中に消えていった――。