お母さんはN伯母ちゃんには姉妹だから


遠慮無くズハズバ文句を言うけど、


私ひとりの時にはあまり我が儘を言わなかった。


子供だし、親として、心配さすまいと


気を遣ってくれていたのだと思う。


そのお母さんが、どうしても手術前に散歩がしたい


と、私に念を押す様に言っていた約束。


それを私は自分の体調の方を考え、すっぽかした。


今思っても、悔やんでも悔やみ足りない…


私をずっと待っていてくれたのに…


まともに出歩けるのも、まともに喋れるのも


殆どこの日が最後だったのに。






お母さんが上体を動かし


意識が少し戻った様なので、


ナ−スコ−ルで看護師さんを呼んだ。


そうしたら、余計な器具を外して、


麻酔が切れると傷口が痛み出すので


その時にはまた、脊椎注射をしに来ます。


とだけ言って病室を後にした。


暫くして、やっと馬鹿親父が戻って来た。


自分の女房の命懸けの手術より


煙草の方が大切か?!


なんだか、口も利きたくない気分だった。


でも、お母さんは、どうしても子供には


自分の苦しむ姿を見せて心配させたくないらしく


最初に呼んだのは親父だった。


そして、あれこれ文句を言っていた。


それこそ「立ったまま上から私を見るな。」


「それじゃ私が死んだ人みたいじゃないか。」


とか、


「あんたに私の痛みがどれ位分かるのか。」


とか。


軽く私は忘れ去られてる様だったけど、


ふいに「Sちゃんはいいの。そこで遊んでて。」


と、まるで幼児を諭すかの様に優しく、


そして冗談まみれに言った。