お父さんはまた煙草を吸いに行った。


私はお母さんの覚醒を待っていた。


N伯母ちゃんは明日の仕事が早いので


珍しく、先に帰った。


だから、私がお母さんに


ついていてあげないと、と


誰が看てあげなきゃいけないの?!


という気持ちで付き添ってた。




2、3日前、激痛も有り、そして脚がむくんで


パンパンになった状態でも、


お母さんが「買い物」に行きたいと言い出して


病院付近の外の売店まで、車椅子で行った。


病状が病状なので母は苛々して、


あれでもないこれでもないと


我が儘を言い出したけど、


そんな風に強く出る母を見て、


いつもの母が戻って来た気がして


私とよく口喧嘩したあの母が戻って来た気がして、


とても嬉しかった。


買い物には父とN伯母ちゃんと私、全員で


連れてってあげた。


買い物を済ませると、病院内に入って


今度はお気に入りのジュ−スを買った。


そして、みんなで手術について話した。


お母さんは頻りに


「これでやっと寝られる。


もう手術の事なんてどうでもいい。早く眠りたい…」


と呟いた。


父とN伯母ちゃんが


何かの手続きを取りに行っている最中


私と母が2人きりになって、


前から母に言おうと思ってた励ましの言葉を


2人きりになったのがチャンスとばかりに


お母さんに喋ってみた。


「(母方の)お祖父さんは104歳まで生きたし


お母さんの家系に、歳とって癌になった人以外


癌になった人は居ないし、癌の家系じゃないんだから


絶対に大丈夫だよ。


手術して取ったら直ぐ家に帰れるよ。」


と。


そうしたら母は、そうだねと


微笑みながら言った。


この時、母は全部を分かっていて


知らないのは自分だけだったのに、


それでも私を気遣って、安心させようと


微笑みながら言ってくれた。





実はこの日、午前中に母と散歩するって約束してた。


だけど、本当に、疲れてしまっていて、


私はすっぽかした。


でもお母さんは楽しみに、ずっと待っていた、と


N伯母ちゃんは言っていた。


娘と散歩する、最後かもしれないって…