「…そ、そんな事は、あの方からお聞きしておりませんが…」

彼女は明らかに動揺していた…

揃えられた美しい指が、小さく畳みをかく音が聞こえたから

「…あの娘は気付くことが出来なかったんです…」

俺は畳から目を上げ、真っ直ぐに彼女の髪飾りを見つめた

心は一つ…

「彼女こそが俺の想う女性ですから!」

彼女の結い上げられた美しい髪も髪飾りも小刻みに震えているのが見えた

でも仕方ない…

小田切に会ってしまった今、俺にはもう他の人を想うことが出来ない…

まだ見ていないこの美しいであろう婚約者でも、もう俺の目には映らない

誰も見えない…

「俺は生徒だからと自分に言い聞かせ、彼女への気持ちをごまかしてきました。でも…もうごまかし切れなくなってしまったんです…彼女を愛しています…」

「ですが…あの方は貴方の事を調べて試していたんですよ?」

「…そうですね…かなりショックでしたけど、でもそれがあって今がある。少なくても俺は、彼女との時間があったことが幸せだったので、次は俺が彼女に幸せな時間をあげたいと思います…たとえ…」