大きな料亭に車は入った。

静かだ…

そしてここだけ涼しい

こんな機会じゃなければ、落ち着いた雰囲気で過ごせただろうな…

長い廊下を歩くとタヌキ親父が振り返った。

「ここからは一人で頑張れよ!俺は別室で、奴とゆっくり飲んでくる!」

「はー!?無責任過ぎるだろう!会ったこともないのに…」

「何を言ってるんだ?会ったじゃないか、お前が高校生の時に。ちゃんと紹介したぞ」

お、覚えてねぇ…

あんまりだろ!?

「んじゃ!ファイト!」

ファイトって…

親父はかなりの変わり者だ…

こんな時じゃなければ、笑えたかもしれないけど…

全く笑えない……

親父はすたすたと廊下を歩いて行ってしまった…

俺はため息をついて、しばらく案内された部屋の戸を見つめていたが、突っ立っていても仕方がないので、諦めてその襖をゆっくり開いた…

中には豪華に並んだ懐石料理と、その向こうに美しい着物をまとった女性が深々と頭を下げていた

「…あ、あの…」

「大変申し訳ございませんでした…」

相手の女性は頭を下げたまま、突然話を始めた