さっきどこかに走っていった神谷くんが戻ってきた。
「これ!」
.....っ!!
神谷くんが渡してきたのは
スリッパだった。
「....下駄箱...行きづらいだろ?」
.....え?
「どうして....」
どうして分かったんだろ....
私の靴が無くされたこと
神谷くんは知っているようだった。
驚く私の隣に
神谷くんは座った。
そしてこっちを見ながら微笑んで
「俺でよければいつでも頼って?」
と言った。
「神谷くん....」
「俺はあんな噂信じてないからな?
桜井をちゃんと見てればそれくらい分かるよ。
きっと桜井のことだから今日のこと...
誰にも言わないつもりだろ?」
「っっ!!」
すごい....
無くされたことだけじゃなくて
そんなことまで気づいてる....
「だからさ...」
そう言うと神谷くんは私の頭に手を置いて
「俺に話して?
仲いい人に言えないなら俺に言って?」
微笑みながら言う神谷くんに
涙が出てくる....
「...っ....ありがと....神谷くん....」
泣きながらお礼を言う私の頭をそっと撫でて1枚の紙を渡してきた。
涙でぼやける私の視界に写ってる文字はなんだか分からなかった。
それでも必死に読もうとすると
「俺のケー番とメアド」
神谷くんがボソッと言った。
「何かあればそこに連絡して?」
......どこまで優しいんだろ...この人は...
「うんっ..」
頷く私を確認すると神谷くんは立ち上がって
「落ち着いたら教室戻ってきてね。
俺....そろそろ行くから」
手を振って教室へと戻っていった。
...私....
がんばってみようかな....
神谷くんのおかげでそんなことを思えるようになった私。
こんなことくらいで落ち込んでちゃいけない!
涙を拭いて立ち上がる。
誰が私をいじめてるなんて分からないけど...
これからも続くような気がする。
だから....
そんな汚い人に負けないようにしよう。
私は教室に向かって歩きだした..───
──────
──────────
新学期が始まってから2週間が経った。
やっぱりあのいじめは止まらなくて
毎日のように嫌がらせの手紙が送らってきたり、
教科書が隠されたり、
最近ではなぜか携帯にメールや電話までくる。
...誰が番号やアドレスを流したんだろ?
手紙やメールには
“ブス”
“ヤリまん”
“消えろ”
“死ね”
などの暴言が主だった。
電話なんて夜中もずっとかかってくる。
出れば無言だったり、
暴言を吐かれたりなどなど...
傷ついたのは最初だけで、
今はただのストレスになっていた。
~♪~♪
....誰だろ...?
音楽が鳴るのは友達と親だけなので
すぐに携帯を手にとった。
ディスプレイには
【神谷 啓太】
プツ──
「もしもし?」
『桜井...今日はどうだった?』
「んー...いつもと変わりないかな...」
『そっか....』
「神谷くんありがとね。
いつもいつも...」
『いや、俺は何もできてないよ...』
「ううん!私...神谷くんがいなかったら新学期初日で不登校にでもなりかねなかったよ...」
『....少しでも役に立てたならいいけど..』
「神谷くんは心の支えだよ、ありがと」
...ほんとだよ...
神谷くんがいなかったら今頃こんなふうに笑っていられないと思う...
毎日学校でも話しかけてくれたり
こうやって電話をかけてきてくれたり...
すごく助かってる。
『じゃ、また明日ね』
「うん、おやすみ」
『おやすみ』
プッ────
「はぁ...」
神谷くんとの電話をきってベットにダイブする。
すると携帯が光り始める。
「.....またか...」
音を出さず光るのは、
すべて嫌がらせの電話。
それを見てまたため息が漏れる....
電源を切ればこんなの見えないんだけど
切っちゃうと直紀くんや詩音からの連絡に出れない。
だからこうして電源をつけてるんだけど.....
「~~~~もうっ!!」
日に日に増える着信量に苛ついて電源を切った。
いつもなら直紀くんがメールをくれる時間になっても電源をつけることはなかった。
それぐらい...
私の心は限界へと近づいていたのだ。
──────
次の日
携帯の電源をつけないまま朝を迎えた。
...休日でよかった...
目を覚まして天井を見ながら思う。
学校に行かなくてもいいってだけでこんなにも楽に過ごせる...
ただぼんやりとしていたとき
ピーンポーン───
来客が来た。
バタバタと足音が聞こえる...
「つばき!?」
「え!?」
いきなり部屋のドアが開いて驚いた。
ドアを見ればなぜか直紀くん。
「...直紀くん...どうしたの?」
直紀くんが連絡もなしに来るなんて珍しい.....
「どうしたの?じゃないだろ...」
どんどんベットにいる私に近づいてくる直紀くん。
私は起き上がってその様子を見ていた。
ギシ───
「なぁ....最近何があった?」
「.....え?」
「俺に気づかれてないと思ったの?
つばき最近変だろ...なんか一緒に帰れない日とかいっぱいあるし、下駄箱から教室までも一緒に行かなくなったし...
それに昨日。
携帯の電源消してたし。
何かあった?」
私の頭を撫でながら心配そうな顔で言う直紀くんに涙が出そう...
ここで泣いて
すべてを言えたら...
どれだけ辛くなくなるだろうか....
言いたい....
“私いじめられてるの”
言いたいよ....
でも....
「何もないよ?」
言ってしまったら直紀くんに心配をかける。
それにそんなこと言われても迷惑だろう。
何が原因でいじめられてるのかも分からないし、
どんな原因でもきっと私が何かしちゃったのかもしれないし...
「直紀くんが心配することはないから大丈夫だよ?」